- 8Kの導入で光が差した
高齢化が進む限界集落の未来とは
まもなく喜寿を迎える昭夫は、妻の和子とともに、
ある地方の農村で50年にわたり養鶏場を経営してきた。
規模はさほど大きくはないものの、
栄養価が高くおいしい卵を生産していると評判だ。
「良い卵は健康な親鳥からしか生まれない」をモットーに、
ストレスを感じやすい動物と言われる鶏が
自由に動き回れるよう、
放し飼いや平飼いといった
昔ながらの飼育方法を継承。
エサも有機栽培の大豆やトウモロコシを中心に配合した
飼料を与えている。
鶏の健康管理には人一倍気を遣い、
愛情を注いできたつもりだ。
そんな昭夫だが、自分自身の健康状態には不安を抱えていた。
大きな病気はほとんど患ったことがないものの、
腰や膝に痛みを感じる頻度が増加。
一晩眠れば回復していた体力も、今では疲れを引きずったまま
作業することが多くなり、少なからず衰えを感じていた。
「牛を育てていたケン坊も、米を作っていたノブやんも、
とうとう退いたか…。ワシもそろそろ潮時かの…」
昭夫が暮らしている地域は、かつて畜産・酪農や稲作、野菜栽培などで栄えてきた農村だが、
近年は後継ぎがいないまま高齢を理由に廃業する農家が後を絶たず、
雑草が無造作に生えた耕作放棄地も散見されるようになった。
高齢化、過疎化が進み、
地域の産業が衰退の一途をたどっている。
「このままでは」と、地方自治体も何とか若い就農者を誘致しようと四苦八苦しているのが現状だ。
そんなある日、自治体の移住希望者サポートの一環で
村を見学に来たひとりの若者、直樹が昭夫の鶏舎を訪れた。
農村地で生まれ育った直樹は、電気機器メーカーのエンジニアとして10年働いたが、
幼い頃に経験した「自然に囲まれた暮らし」への想いが断ち切れず、
思い切って脱サラを決意。
妻と子供の了承を得て移住を決断した。
直樹は自治体のWebサイトで昭夫が暮らす農村の現状を知り、
担当者からは昭夫が廃業を考えていることも聞いた。
そして、どうにか養鶏場を引き継ぐことはできないか、昭夫への直談判にこぎ着ける。
もちろん、養鶏も独学で勉強した。
「昭夫さんの養鶏場で働かせてもらえませんか?」
「あんた、養鶏の経験はあるのか?」
「独学では勉強しましたが、素人同然です。
養鶏の技術や経験のない私にはまだまだ
昭夫さんのお力が必要です。
ただ、この養鶏場に一つの提案を考えてきました」
「提案? なんじゃ、それは?」
直樹の提案とは、養鶏場に8Kの監視カメラとAIによる
健康管理の技術を導入する、というものだ。
昭夫にはその説明の内容をほとんど理解できなかったが、
それよりも目の前にいきなり現れた若者に人生のすべてを
捧げてきた養鶏場を易々と預けていいものか、
生半可な気持ちで養鶏を考えていないか、
疑いは拭えなかった。
同時に、後継者が現れてくれた喜びも少なからずあった。
東京で安定した生活を築く一人息子からは、
家業を継ぐ意思はないとはっきり告げられていたからだ。
直樹への回答は一旦保留にしていたが、
その間に妻の和子から何度も説得されたこともあり、
徐々に心は軟化。
数日後、村に引っ越してきた直樹に、
相当の覚悟を感じとった昭夫は、
ついに養鶏場を託す意思を伝えた。
早速、直樹は鶏舎に8Kの監視カメラとAIを導入した。
ヒヨコから成鶏、卵まで、高精細な8Kカメラで撮影し、それをAIで解析して健康状態などを管理。
鶏舎内の環境を数値などで管理し、
異常がないかチェックした。
養鶏で最も重要とされる鶏の健康管理と鶏舎の衛生管理を、
直樹は高精細な8Kカメラと正確無比のAIで補ったのだ。
昭夫は8Kカメラとディスプレイの性能に驚いた。
肉眼で見るよりも鮮明に鶏の姿を映し出したからだ。
鶏の行動はもちろん、羽の色ツヤなども
はっきりと確認できるなど、
個体の異変やストレスの有無が自宅にいながらモニターで見分けられる。
そして、気がかりな個体が見つかれば、
瞬時にAIで解析し、状態の悪い個体を割り出せる。
あとは必要な時だけ集卵やエサの給与、
鶏舎の清掃・消毒に行けばいい。
「これなら、体力面で不安がある高齢者だけじゃなく、養鶏未経験の人、
副業や兼業といった形で
働きたい人でも養鶏の事業が始めやすい」
昭夫は手応えを感じていた。
「あんた、養鶏で一番大事なことを
知ってたんか?」
「前にも言いましたけど、
ここに来る前に独学で養鶏を
勉強していたので(笑)」
「大したもんじゃ。それに、
今の最先端技術にも恐れ入った。
これで心置きなく
身を引くことができる」
「いやいや。昭夫さん、
ここからがスタートですよ。
ここで生産した卵をブランド化し、
世の中に発信していくんです。
そのためには昭夫さんの経験が
不可欠です。だから、
体への負担が少ないテクノロジーの
導入を試みたんです」
「あんた、そこまで考えてたのか…」
「少しは信用してくれましたか?(笑)」
1年後、8KやAIのテクノロジーと伝統ある畜産農家の
ノウハウが協創したブランド卵としてメディアで報じられ、
昭夫や直樹のもとには全国各地から注文が殺到した。
この成功事例をきっかけに、
酪農や野菜栽培などにも
8KやAIの技術を応用した農業が着実に浸透。
これを聞きつけた全国の若い就農者はもちろん、
一度リタイヤした農家までもが再復帰。
集落に再び明るい光が差し込んできた。
8K+5Gで、あなたの未来は、ここまで変わる。