「BLACKSOLAR」は、モジュール変換効率19.1%を誇る業界トップクラス※1の住宅用 単結晶太陽電池モジュールです。その原形となったのは、2009年に発表されたソーラーパネル搭載の携帯電話。この頃には、現在の「BLACKSOLAR」に採用している技術の原型はできていましたが、大型の住宅用電池として量産化するにはさらなる技術革新が求められていました。
開発の大きな鍵となったのは、「受光量の増大」「送電ロスの低減」「発電ロスの低減」でした。
太陽電池は半導体でできています。半導体は、光があたると正孔「+」と電子「−」が発生する性質があり、「+」が集まる「P型半導体」と、「−」が集まる「N型半導体」の2種類をつなげることで、乾電池のように「+」と「−」の間に電圧が発生、電気を取り出せます。
従来の単結晶セルは、受光面に「−」が集まるN型半導体と、その上に接して電気を運ぶ配線が施されています。配線部分は太陽光を反射してしまうため、一般的な太陽電池モジュールでは、6%程度の受光ロス※2が発生しており、配線をできるだけ細くする必要がありました。
さらに、電極に集められた電気を効率的に運ぶために考えたのが「配線シート方式」です。「バックコンタクト構造」により、太陽光の反射を考慮する必要もなく、電気を運ぶための配線を太くする(本数を増やす)ことも可能となりました。裏面全体を使った「配線シート方式」により、電気を運ぶ際の送電ロスを3%程度※3低減することができました。
裏面に100ミクロン程度の電極を200本以上も配置しています。電極と配線シートをずれることなく接合するのは至難の技です。電極は髪の毛一本以下の細さで、経験豊富なシャープの職人でも容易に達成できないレベルのものです。
この解決には、匠の技を集結させた「シャープ堺工場」が真価を発揮しました。半世紀もの間で培ってきた製造技術のノウハウを製造ラインに注ぎ込み、自動化を実現。この細い電極を約10ミクロンの精度でずれなく印刷するようにしました。これを実現するため、原材料の選定から配合はもちろん、はんだ付けのペーストの粘度に至るまで、あらゆる改善を重ねました。
電極と接合し、電気を運ぶための配線シートは1mm以下のピッチで構成されます。電極と配線シートを約30ミクロンの精度でずれなく、接続する必要があります。これは、一般的な太陽電池の約10倍の精度となります。
こうした職人の技術とノウハウを堺工場に集結させることで、業界で初めて「配線シート方式」を実現できました。
「配線シート方式」と「バックコンタクト構造」を組み合わせることで、一般的なモジュールと比較して変換効率を9%程度も向上でき、太陽電池モジュールの理想的な構造と考えています。
セルの表面の電極をなくし光の反射を抑えることで、黒が引きたつデザインになることから、「BLACKSOLAR」と名付けました。
他にも課題がありました。
電気を作り出す際に発生する正孔「+」と電子「-」が再び結合してしまうことで、発電ロスが生じていました。この発電ロスをどこまで防げるかが、高効率化に大きく寄与します。そこで、再結合防止膜に使用する材料を見直し、試行錯誤の上で、帯電性のある膜を精製する技術「再結合防止膜形成技術」に成功、6月末に発売する「BLACKSOLAR」の新製品<NQ-220AEシリーズ>に採用しました。この技術によって従来品と比べて、受光面表面の発電ロスを90%※4、裏面P型半導体表面で75%※4低減しています。
これは、国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の成果の一部を活用したもので、今まで以上の高効率化を実現しています。
次なる挑戦は、限られたスペースで設置容量を増やすことです。発電量をアップさせるには大きく2つのポイントがあります。1つ目は「バックコンタクト構造」等によるモジュール高効率化。2つ目は限られた面積で、モジュールをたくさん載せる技術。この2つの掛け合わせが設置容量です。日本独特の『寄棟屋根』や『切妻屋根』は造形は美しいのですが、四角いモジュールを設置するには効率が良いとは言えません。そこで、日本家屋の様々な屋根の形状や荷重性能を調査、様々なパターンをシミュレーションし、最大公約数となる寸法を導き出しました。
南北にわたっておよそ3,000kmある日本は、四季による年間の温度差だけでなく、雪の降る地域や海の近く、台風の通り道など、実に過酷な環境にあります。太陽光発電システムの設置はこれらを想定し、厳しい環境に耐えられる設計が求められます。
シャープは、独自の品質評価基準「機能評価試験規格(QTSS)」を開発。ドイツ最大の電気・電子技術協会である「VDE※5」から、その効果を認める適合証※6を取得しました。「QTSS」とは、「Quality Test Standard of SHARP※7」の略で、55年以上に及ぶ開発の歴史と設置実績をベースに開発した当社独自の基準です。電気・電子工学に関連した技術を扱う国際的な標準化団体「IEC(International Electrotechnical Commission)」が定める規格※8よりも数倍〜10倍程度厳しく設定しています。さらに、海上や山間部を想定した「繰り返し風圧試験」や豪雪地帯を想定した「滑雪試験」など、IEC規格にはない当社ならではの独自の開発試験も加えています。
様々なチャレンジを経て誕生した「BLACKSOLAR」ですが、設置いただいた後のアフターサービスにも挑戦しています。
全国どこのお客様に対しても安心して設置いただけるよう、施工会社の皆様に徹底した研修を実施。修了証として認定IDを発行し、認定取得者のみが施工にあたります。研修では太陽光発電に関する知識や施工技術はもとより、様々な屋根材を用いた模擬屋根を使った実習を行います。また、約70名体制のCADセンターを設置。施工会社向けに、効率だけでなく外観を美しく設置できるようCADデータ(モジュールの設置レイアウト)を提供しています。
また、設置後もインターネットを通じて運転状況を見守り続ける「Webモニタリングサービス」を業界で初めて提供しました。シャープ独自のしくみです。万一のトラブルや異変を察知すると、全国約90カ所に設置されたサービス拠点から、専門的な技術と知識を習得した「ソーラーテクニカルマイスター」が対応いたします。
さらに、業界初の「プレミアム保証」を無償で提供。周辺システム機器に関しては15年間、モジュールは20年間にわたり保証します。
シャープが1959年に太陽電池の開発に着手、実用化してから今日まで、累計出力は10.3GW(2014年末時点)に及びます。モジュールに換算して一列に並べると、地球一周以上※9に相当するまでになりました。
シャープでは現在、「作って、貯めて、賢く使う」というスローガンのもと、太陽電池から作った電気を充電・売電するクラウド蓄電池システム、家庭用電気製品に連携するHEMSに至るまで、トータルエネルギーソリューションの展開を進めています。家電や通信技術を保有するエレクトロニクスメーカーならではの取り組みです。