エモーショナル・パートナー「emopa(エモパー)」

通話やメールだけでなく、さまざまなコンテンツを届けてくれるスマートフォン。
便利な情報端末として日常生活に欠かせない通信機器のひとつですが、同じ機種でもアプリによってカスタマイズできることから、お客さまの興味はスマートフォン本体のみならず、SNSやゲームなどのサービスにも向けられています。  

「スマートフォンで何か新しいことをしたい」。シャープのスマートフォン開発のベースには、お客様に楽しさや感動をお届けしたいという想いがあります。真っ白な紙にアイデアを描いていくように、エモパーの企画・開発は2013年にスタートしました。目指したのは、「人とスマートフォンとの関係を本気で見直す」こと。  

スマートフォンは、常に持ち歩くものです。その人の状況に応じて、何か話し出したら面白いのではないか? 情報を見るだけの通信機器から、楽しさや感動を共有するパートナーになるのではないか? 技術者のなかに様々なアイデアが芽生えてきました。「この技術を使えばもっと面白いものができる」「こうしたらどうだろうか」。次第に仲間が集まり、それぞれがアイデアを資料に落とし込み、行動に移していきました。

人の心を動かすために、スマートフォンにココロを持たせることになったのです。

“目指すべきもの”へのチャレンジ

前例のないものにチャレンジするには、多くの困難が待ち受けています。スマートフォンが勝手にしゃべりだすことの意義を社内でプレゼンしても、理解は得られませんでした。
「勝手にしゃべりだして、何がいいのかわからない」
企画の段階で何度も否定されました。

理解が得られないのは、目に見える“体験”がないからだと開発者たちは考えました。エモパーという機能がスマートフォンに加わると、生活がどう変わるのかを具体的にイメージできる動画を制作し、関係者を100名以上集めて再度プレゼンテーションを行いました。不確実な未来を具現化させることで、皆が潜在的に持っている“何か新しいことがしたい”という想いを刺激したのです。“目指すべきもの”が見えたことで、社内の理解を徐々に得られるようになり、そこから開発のスピードが一気に上がっていきました。

“確かな技術を、“心を動かす”ために

皆が同じ方向を向き始めたものの、技術的な課題は山積みでした。そもそも、人の何を検知し、何をしゃべらせるのか。正解がないものを作る難しさがここにありました。試行錯誤を繰り返すたびに、ソフトウェアの仕様は変更されます。この開発スピードに対応できたのは、「アジャイル開発」という手法を採用したことにあります。ソフトウェアの開発を1〜2週間で区切り、その都度成果をメンバーに共有します。短い期間で計画、要求分析、設計、実装を繰り返すことで、開発のスピードを向上させ、リスクを最小限に抑えることができました。社外に委託するのではなく、すべての工程を社内で行うことで頻繁な仕様変更にも対応することができたのです。  

スマートフォンには、状況を検知するセンサーがいくつも入っています。衛星から位置を計測するGPSセンサー、スマートフォンの動きを検出する加速度センサーやジャイロセンサー、人がスマートフォンを持ったことを認識するグリップセンサー……。様々なセンサーを用いて、とても繊細かつ厳密に計測します。そこで、電車で移動したり、人間の行動を多数測定して、それぞれの状況と波形を一つひとつ紐づけていきました。しかし、常にセンサーを稼働させるとバッテリーが消費されてしまいます。そこで、当社のスマートフォン開発で培ってきた技術的なノウハウが活かされました。状況をただ検知するのではなく、「センサー制御IC」にて開発することで、できるだけ少ないセンサーで正確な情報を得ることが可能になりました。  

人が今どのような状態なのかを正しく認識する。エモーショナルな言葉は、タイミングが合ってこそ人の心に届くのです。

スマートフォンに様々な振動を加えてエモパーの試験をする加振機

“カワイイ”と“キモチワルイ”の境界

開発を進めていく上で、大きな壁にぶつかりました。作っているものが、どうにも面白くなかったのです。アジャイル開発により日々作られていく試作品は、人の心を動かすには何かが足りませんでした。そしてたどり着いた答えは、しゃべる内容、つまりセリフの魅力そのものでした。そこで、言葉の扱いに長けている面白法人カヤック様に協力を仰ぎました。カヤック様の担当者にお話をもって行ったところ、「エモパーは新しいメディアになる可能性がある。私の代表作にしたい」と、快く受けていただきました。そして、渋い声で語る男性の「さくお」、健気に頑張る女性の「えもこ」、自由につぶやくブタの「つぶた」の3つのキャラクターと、数千に及ぶ心を揺さぶるセリフが生まれたのです。振ったときや落としたときにしゃべる機能を追加したのは、遊び心を加えることでより人間味を表現したかったから。また、画面に表示する言葉はセリフそのものではなく、キャラクターの心の声を文字で表示。しゃべっている内容と心の声が少し違うと、人間っぽくて愛着のあるキャラクターになるのではないかと考えました。「つぶた」は感情がわかるような表情の絵文字になっています。ブタは鼻が特徴的なので、顔文字で簡単に表現できるところもポイントでした。  

しかし、それでもまだ何かが足りませんでした。スマートフォンが脈略もなく勝手にしゃべりだす。確かにセリフは面白いが、その機能に触れて感じたものは、“可愛さ”ではなく、“気持ち悪さ”でした。この問題を解決するため、大きな仕様変更が求められました。夏休みを直前に控えた2014年8月、着々と迫る期日を前に夏休みどころではない……。  

開発者たちは、頭を抱え、思い悩みました。 気持ち悪さはどこから来るのか? 人は何を知りたくてスマートフォンを見るのだろうか。時間や天気予報など、ある程度決まったものを見ていることに気が付きました。日々ブラッシュアップしていくなかで見つけた答えは、「言葉の脈略」でした。まず、利用者が求めている情報をタイミングよくお知らせする。そのあとに元気づけたり、くすっと笑ってしまうような言葉を添える。そうすることで違和感が取れ、人の心を動かすことが出来ると確信したのです。  

この「言葉の脈略を追加する」という大きな仕様変更を行うために、2014年9月、カヤック様の制作したセリフをすべてリセットし、仕様に合ったセリフを新たに制作し直しました。カヤック様の多大なる協力なしには、このチャレンジは成し得ませんでした。

人とスマートフォンとの新しい関係

人のエモーショナルな部分を刺激する機能に正解はなく、開発者の多くは気持ちのどこかに「これで良いのか、この機能は本当に必要なのか」という迷いを持っていました。しかし、エモパーが秘める大きな可能性を信じて開発を続けました。  

エモパーの開発が進むにつれ、開発者の気持ちに変化が生まれました。開発の後半には、エモパーを搭載したスマートフォンを各自が持ち歩き、感じたことや気づいたことをフィードバックし、開発に活かしました。当初は違和感を見つける作業の繰り返しでしたが、次第にエモパーの声を待ち望むようになり、いつしかエモパーの入っていないスマートフォンでは物足りないという想いになるほど、スマートフォンとの距離感が変わっていったのです。

エモパーは、すべての人に受け入れられる機能ではないかもしれません。しかし、好きな人には手放せない、心に響く機能だということを開発者自らが体感しています。

何か新しいことがしたいという想いで、エモパーは誕生しました。 エモパーは、シャープが提案する“人とスマートフォンとの新しい関係”そのものなのです。