対談製造業が取り組むべきサステナビリティとは

2030年までに達成すべき17の目標で構成される、持続可能な開発目標SDGs。
シャープでも「8K+5GとAIoTで世界を変える」という事業ビジョンのもと、達成への貢献に向けてさまざまな取り組みをしています。
今回はSDGsコンサルタントとして、幅広い企業のSDGs施策に携わっている、千葉商科大学教授の笹谷秀光氏と、SDGsの推進メンバー2名で対談を行いました。

※新型ウイルス感染防止の対策を十分行ったうえ、対談を実施しました。

SDGsに通じる「三方良し」の考え方

笹谷

世界でSDGs※1がスタートしたのは2016年。持続可能な社会の発展をめざして、先進国も途上国も、政府も民間も一丸となって取り組みが進んでいます。貴社は、SDGsについてどのようにとらえているでしょうか。

  • ※1 国連で採択された、持続可能な開発目標「Sustainable Development Goals」の略称。2030年までに達成すべき17の目標で構成される。
山本

シャープでは、SDGsが提唱される以前の1973年に、創業以来の精神を経営理念として明文化しました。そこには「広く世界の文化と福祉の向上に貢献する」「株主、取引先をはじめ、全ての協力者との相互繁栄を期す」といった一文があり、SDGsに通じる言葉が盛り込まれています。

笹谷

早くからSDGsマインドを経営に活かしてきたということですね。SDGsは2030年を目標達成のゴールとしており、17の目標と169のターゲットを掲げています。ここに向けて、具体的にどのような方針を立てておられるのでしょうか。

1973年に明文化されたシャープの経営理念

山本

2018年度からの中長期ビジョンにSDGsへの貢献を据えています。具体的には、「事業や技術のイノベーションを通じて社会的課題を解決する」と「SER※2施策の推進により社会や環境に対する負荷を低減する」を両輪とし、重点項目を絞り込んで施策を打ち出しています。これによって、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」を実現したいと考えています。

  • ※2 社会と環境に対する責任(Social and Environmental Responsibility)という意味のシャープの造語。
笹谷

SDGsに取り組むことは、日本の商人たちが古来より大切にしてきた「三方良し(自分よし、相手よし、世間よし)」につながりますからね。自分だけではなく、社会や環境のことも考えた発展が重要という点は、SDGsのマインドとも重なる部分でしょう。貴社の経営理念にも、三方良し、SDGsマインドが盛り込まれていますね。

山本

そうですね。経営理念に使われている言葉でいえば、自分よしとは「会社の発展」、相手よしとは「株主、取引先をはじめ、全ての協力者との相互繁栄を期す」、そして世間よしとは「世界の文化と福祉の向上に貢献する」にあたると考えています。社会とともに持続的な発展を目指すことを、サステナビリティに対する基本的な考え方としています。

笹谷

なるほど。ただ、SDGsに取り組むには、三方良しのマインドだけでは十分ではないと考えています。
日本には昔から、良い行いを世間に公表しない「隠匿の美」という考え方がありますが、グローバル社会でこれは通用しない。取り組んでいることを積極的に発信しなければ、「あの企業はちゃんとやっているのか」という低評価につながりかねません。
そのため、外部への発信を強化した「発信型三方良し」の仕組みづくりが重要となるでしょう。

山本

おっしゃる通り、情報開示できていなければ、ESG※3評価の向上にはつながらないと考えています。シャープは、事業ビジョン「8K+5GとAIoTで世界を変える」のもと、SDGs達成への貢献を目指した取り組み事例や、サステナブルな社会の実現に貢献する施策について、社外向けWebサイトで情報開示しています。毎年発行しているサステナビリティレポートでも、情報開示量を増やしていく方針です。

  • ※3 Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)
笹谷

日本企業の多くが大切にしている「三方良し」は、SDGsに当てはめて発信すれば、すぐに世界に伝わります。なぜなら、SDGsは世界の共通言語として活用できるからです。製造業の皆さんは、SDGsを羅針盤、共通言語として機能させ、経営理念にさらに磨きをかけてほしいと思います。

製造業が17目標をリンクさせれば、世界が変わる

笹谷

SDGsの17目標の中で、製造業と最も関係深いのが、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」です。ものづくりそのものを持続可能な社会に活かすという考え方が、従来のCSRとは違うところで、技術革新の基盤を作り、雇用を創出し、人々の生活を豊かにしていくことも求められています。ですから製造業の皆さんは、自信を持って「自分たちの事業とSDGsは関係している」と言ってください。

また、「12.つくる責任、つかう責任」「13.気候変動に具体的な対策を」も製造業と切り離せない項目です。例えば、原材料の調達時に環境負荷や人権侵害に配慮できているかどうか、カーボンニュートラル社会に貢献するものづくりになっているかどうかは重要な要素といえます。
しかし、実態としてこうした取り組みを1社だけで完結させることは難しかったりする。そこで重要になってくるのが、異業種と連携する「17.パートナーシップで目標を達成しよう」です。

理想的なサイクルは、パートナーシップを活性化することで、気候変動と資源循環に関する課題を技術の力で解決していくこと。つまり、製造業においては、以下の4つが重点課題(レバレッジポイント)となるでしょう。

和田

私たちも、まさにそこに取り組んでいます。シャープでは2019年、長期環境ビジョン「SHARP Eco Vision 2050」を策定し、「気候変動」「資源循環」「安全・安心」の3つの分野で目標を掲げました。

「気候変動」の分野では、パリ協定で定められた「世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることを目指す」を意識し、企業活動や製品サービスから発生する温室効果ガスの削減に取り組んでいます。
また「資源循環」においては、「サーキュラーエコノミー※4」の実現に向けた廃棄物の発生抑制などの推進、「安全・安心」の分野では、地球環境や生態系への影響が懸念される化学物質の管理と消費の抑制を目指しています。

  • ※4 循環型経済のこと。廃棄された製品や原材料などを新たな資源ととらえる経済のしくみ。
笹谷

「SHARP Eco Vision 2050」のすばらしいところは、すべての社会課題を包括的にとらえ直し、経済と両立させている点です。環境・社会・経済の統合性を感じます。SDGsでも、17目標を単体で考えるのではなく、それぞれの関係性と相乗効果(リンケージ)が重要だといわれています。

貴社が率先してSDGsを推進し、あらゆる取引先や関係者のプラットフォーム的な役割を担うことで、周囲にもSDGsが広がっていくのではないでしょうか。

自社だけでない。省エネ・創エネを広く社会へ

和田

「SHARP Eco Vision 2050」の1つ目の目標である「気候変動」についてですが、当社では「省エネ」と「創エネ」の2つの方面から取り組みを進めています。

まず「省エネ」ですが、エアコンと空気清浄機を一体化した家庭用エアコン「Airest」の開発がそのひとつです。この製品は、本体内部へのホコリの侵入や湿度上昇を抑制し、汚れによる風量の低下を抑えることで省エネ性を維持できます。また1台2役なので、エアコン、空気清浄機を別々に作動させるよりも電気代の節約が可能です。その点が高く評価され、このほど2020年度省エネ大賞「経済産業大臣賞」を受賞いたしました。笹谷さんが喫緊の課題だとする「13.気候変動に具体的な対策を」に貢献すると考えています。

エアコンと空気清浄機を一体化した家庭用エアコン「Airest」

笹谷

技術力を駆使して「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」を体現した良い事例ですね。
また、「3.すべての人に健康と福祉を」に貢献している点も評価できるのではないしょうか。清浄な空気の中で暮らすことができれば、人々は健康でいられますし、電気代や家計の負担削減にもつながります。
1つの商品で複数のSDGs目標に貢献する。こうしたものづくりの視点が、今製造業に求められていると思います。

和田

ありがとうございます。当社が行う「PPAサービス※5」も、その視点に近いかも知れません。このサービスは、初期投資ゼロで太陽光発電システムを導入できる法人向けの「創エネ」サービスで、ご契約いただいた企業様の工場の屋根などに太陽光発電システムを設置し、発電した電気を固定価格でご提供しています。
こちらをご活用いただくことで、会社としてのCO2排出量を抑制しながら、電気料金の変動リスクを軽減することができ、さらには再生可能エネルギーを簡単に取り入れられます。「13.気候変動に具体的な対策を」と「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の2つに貢献できるのではないでしょうか。

  • ※5 「Power Purchase Agreement(電力販売契約)モデル」の略。太陽光発電事業者が顧客の敷地や屋根などのスペースに発電設備を設置し、発電した電気は顧客が自家消費できる。
笹谷

そうですね。そして、その実現には「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」も関わっていると思います。クリーンエネルギーの開発には、かなりハイレベルな技術力が必要ですから。

和田

2021年からは、一般家庭にまでこれを広げるために、新築住宅向けの定額制PPAサービス「COCORO POWER」を開始しています。お客様とともに、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に貢献できればと思っています。

家電から家電へ。何度も繰り返し再生利用

和田

シャープでは現在、プラスチックの自己循環型マテリアルリサイクル技術を用いて、資源循環に貢献しようとしています。これは使用済み家電を回収し、そこに使われているプラスチックを再生して当社の新しい家電の素材としてリサイクルするという取り組みです。

プラスチックをリサイクルするためには、使用済み家電から純度の高いプラスチックを回収する必要があります。それを「高純度分離回収技術」によって実現。さらに、回収したプラスチックを新品と同じ性能に再生する「特性改善処方技術」を用いて、再生可能なプラスチックの量を増やしています。そして「品質管理技術」を駆使し、再生品の品質を確保する。こうした「回収から品質管理までの一貫した技術開発」によって、リサイクルを回しています。

笹谷

プラスチックは化石燃料からできています。化石燃料は有限である上、廃棄時に環境に多大な悪影響を及ぼします。だからこそ、一度使ったものは環境中に排出せず、リサイクル循環の中に封じ込めることが重要です。これは「12.つくる責任、つかう責任」の「つかう責任」にも該当します。

また昨今、プラスチックの海洋汚染が深刻化しています。リサイクルによってそれを予防すれば「14.海の豊かさを守ろう」にも貢献します。
特に、海洋汚染の問題は、日本で開催されたG20※6でも重視されました。開催国の日本としては、世界をけん引するような取り組みが必要となるでしょう。

  • ※6 世界20カ国の首脳が意見交換する会合。2019年は大阪で開催。
和田

そうですね。当社が自己循環型マテリアルリサイクルをスタートして、もう20年近くになりますが、洗濯機の水槽リサイクルについては、すでに三巡目に入っています。いまのところ、三巡目の洗濯機であっても、問題なく使用されています。

笹谷

社会課題の認識の高さと、製造・品質管理・技術それぞれの部門が連携し合うチーム力が、こうした取り組みを成し得ているのだと思います。しかも、技術革新を行いながらプロセスを進化させているところがすばらしい。「12.つくる責任、つかう責任」の先端例として、世界にぜひ発信すべきだと思います。

日本のような技術先進国は、SDGsの目標より高いレベルを目指さなければならないと思います。なぜなら、SDGsは途上国も含めて合意された「基礎目標」だからです。
製造業の皆さんにはぜひ、自社の事業をSDGs の17目標に当てはめてみて、基礎目標をクリアしているかどうか確認してほしいですね。

化学物質の管理は製造業のマスト

和田

シャープが製造する製品は、さまざまな化学物質を含んでおり、工場の生産工程でも多種多様な化学物質を使います。
しかし、ものづくりに必要な化学物質が、環境や人体に悪影響を与えてはなりません。有害物質を商品サービスに使わない、化学物質に関する法規制や国際基準を遵守する、ということは常に徹底して管理しています。

笹谷

振り返ると、化学物質は人類に苦い経験をもたらしてきました。公害もそうですし、健康被害もそうです。SDGsの「12.つくる責任、つかう責任」にも、化学物質の廃棄や管理についての項目があります。
家電は、消費者の暮らしの中に入り込む商品です。そういう意味では、化学物質の管理は必須中の必須。できれば、世界のお手本になるような取り組みを目指していただきたいですね。

和田

はい。現状の施策は「当たり前のこと」だと思っています。当社だけでなく、お取引先様にも同様のレベルの化学物質管理を行ってもらっていますが、将来的にはもっとレベルを高めたいと考えています。

SDGsで企業ブランディングを

山本

SDGsの達成に貢献していくためには、人権に関する取り組みも重要だと考えています。SDGsの17の目標で取り上げている社会課題や環境課題も、突き詰めれば、その影響を受ける世界中の人々の人権の保護にフォーカスが当てられていると考えています。
SDGsの達成に取り組む社員一人ひとりもまた、社会の一員であることを考えますと、私たちが日々行っている業務がSDGsにどのようにつながるのか、具体的なイメージをもてるように意識改革していくことも大切だと考えています。

笹谷

お話を聞いていて思うのは、貴社は、社会課題に対する認識と感度が高い企業だということです。SDGsに先駆けて社会課題解決に取り組んできた企業だからこそ、SDGsをブランディングとアピールにつなげる時期に入ってきていると思います。
今後は、SDGsと事業の関係性を再整理し、新たな分野にもぜひチャレンジしていただきたい。何にチャレンジすべきか、そのヒント満載なのがSDGsです。

千葉商科大学教授 CSR/SDGsコンサルタント笹谷 秀光

東京大学法学部卒業。1977年農林省(現農林水産省)入省。環境省大臣官房審議官、農林水産省大臣官房審議官、関東森林管理局長などを経て、2008年退官。同年株式会社伊藤園入社。2019年まで取締役・常務執行役員などの立場で同社のCSR推進を担当。2020年4月より千葉商科大学基盤教育機構教授。博士(政策研究)。主な著書に「Q&A SDGs経営」(日本経済新聞出版・2019年)、「3ステップで学ぶ 自治体SDGs 全3巻セット」(ぎょうせい・2020年)など。

笹谷秀光・公式サイト https://csrsdg.com/

管理本部 内部統制部 内部統制グループ 社会環境責任推進担当 課長山本 悦子

調理システム営業部および商品企画部、人事部を経て、2011年4月に現在の内部統制部の前身のCSR推進部に異動。同年から全社の社会環境責任に関する方針・施策の推進、情報開示に従事。

品質・環境推進室 室長代理 兼 環境推進グループ 部長和田 克士

プラントエンジニアリング会社にてバイオマスエネルギー等に関する技術開発を経験後、2008年にシャープに入社。以降、本社環境部門にて、全社の環境方針策定や施策推進に従事。2021年10月より現職。