8K×建築
scene scene
ミリ単位の亀裂もサビも見逃さない
建物のメンテナンスは自動化の時代へ

「特に異常ないですね。しかし、これだけ鮮明な画像なら、
1ミリの亀裂も見逃さないでしょうね」と健一は笑みを見せた。
目の前のモニターには、高層ビルの地下深くに広がる
基礎部分が映し出されている。健一が勤める大手建設会社によって
竣工したばかりの、都心の新たなランドマークだ。

このビルには、完成後の経年劣化を8Kカメラでモニタリングし、
わずかな異常もキャッチする最新鋭のメンテナンスシステムが
導入されている。そのシステム開発と導入を率いてきたのが健一だ。
今、その努力が実を結び、画面には現場での目視確認よりも鮮明に
基礎の状態が映し出されている。満足げな表情を浮かべる健一だが、
頭の中では導入までの険しい道のりが走馬灯のように巡っていた。

2年ほど前のことだ。健一は、
システムの導入に反対する職人の源田和彦、
通称ゲンさんを必死で説得していた。
「ゲンさん、これから建設業界は人手不足。
遠隔でモニタリングや異常振動の検知ができる
システムを入れておかないと、
メンテナンスは難しくなります」
「いや、機械の判断なんか信用できるか。
建物というのは人の目で見て、
手で触って初めて状態がわかるんだ」
「でも、今の8K映像があれば、肉眼と比べても
違和感がないほどの鮮明さで状態を確認できるんです。
微細振動のセンサーと組み合わせれば、
今よりもはるかに正確に、
しかも24時間のモニタリングができます」
「そうやって若手は機械に頼るから
技術が向上しないんじゃないか」

話は平行線だ。「頑固だな…」と健一は思いつつも、
ゲンさんの意見を切り捨てるようなことはしなかった。
それもそのはず、ゲンさんは健一にとって仕事の師匠なのだ。
意見が対立しながらも、
右も左も分からない新人の頃から、時に厳しくも
自分に技術を授けてくれた恩師への
敬意を健一は忘れていなかった。
しかし、折れるわけにもいかない。
業界の人手不足は深刻で、
健一の会社にとっても
メンテナンス業務の省人化は避けて通れない
課題だったのだ。

溝が埋まらないまま、数日がたったある日、
健一を驚かせるニュースが飛び込んできた。
ゲンさんが仕事中のアクシデントで足を骨折したのだ。すぐに病院へ運ばれ、
そのまま3週間ほど入院することになった。
お見舞に駆けつけた健一に、ゲンさんは力なくつぶやいた。
「こんなドジを踏むなんて、俺も歳だね。機械は骨折なんかしないから、
ひょっとしたら俺より役に立つかもな…」
「ゲンさん、そんな弱気にならないでくださいよ。
僕たちにはまだまだ教えていただきたいことが山ほどあるんです」
「でもなあ…」ゲンさんは続けた。「機械のモニタリング、やっぱり必要なんだな。
お前の気持ちが、今やっとわかったよ」「ゲンさん…」

その後、メンテナンスシステムの開発
プロジェクトは一気に動き出した。
建物を支える基礎部分と免震装置は
8Kカメラによって常にモニタリングされ、
次世代移動通信システムによって
瞬時に監視室へ送られる。
ミリ単位の亀裂や、わずかなボルトの錆が
耐震性能に影響を与えるだけに
超高精細映像で常時監視できるシステムは
今後のビル建築に
欠かせないものとなっていくだろう。

ある日、完成したビルが見える公園で、
健一は久しぶりにゲンさんに会っていた。
ビルの完成よりひと足早く、ゲンさんは現役を退いていた。
「あのときは頑固に反対して悪かったなぁ。
若い頃は、俺の目と指先に勝るものはないと思ってたけど、
今の機械はすごいな」
「いえいえ、今でもゲンさんの腕はピカイチだと思っていますよ。
それに…」
健一はゲンさんの方へ顔を向け、言葉を続けた。

「僕たちがゲンさんから教わってきた
メンテナンスの知識やコツが、
システム開発にたくさん生かされているんです。
だから、モニタリングしているのは機械でも、
そこにはゲンさんの想いが宿っているんですよ」
テクノロジーがどれだけ進化しても、
人の手で築き上げてきた技と心は生き続ける。
そんな思いを抱きながら、
健一は改めてビルに目を向けた。
「このビルの安全は、今もゲンさんが守っている」
8K+5Gで、あなたの未来は、ここまで変わる。

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