変換効率33.66%を達成した化合物・シリコン積層型太陽電池モジュール
シャープは、NEDO※3の「移動体用太陽電池の研究開発プロジェクト※4」において、化合物2接合型太陽電池モジュール※5とシリコン太陽電池モジュールを組み合わせた積層型太陽電池モジュールで、世界最高の変換効率33.66%を達成しました。
本モジュールの変換効率は、当社が2022年にNEDOのプロジェクトで達成した世界記録32.65%を更新するものです。試作した太陽電池モジュールは、化合物2接合型太陽電池セルをトップ層に、シリコン太陽電池セルをボトム層に配置した新構造により、さまざまな波長の光を効率的にエネルギー変換できることから、高効率化を実現しました。また、化合物2接合型太陽電池の厚さは従来の化合物3接合型太陽電池から3分の1以下に薄層化できるため、材料コストの低減が図れます。
当社は今後も、電気自動車や宇宙・航空分野などの移動体への搭載に向けて、引き続き太陽電池モジュールの高効率化および低コスト化に関する研究開発を進めます。これにより、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、移動体分野における温室効果ガスの排出量削減に貢献してまいります。
なお、本モジュールは、本年11月10日(金)から12日(日)まで東京ビッグサイト 東8ホール(東京都江東区有明3)で開催する技術展示イベント「SHARP Tech-Day」にて一般公開いたします。
「SHARP Tech-Day」に関する情報・参加登録は、以下の特設ウェブサイトをご参照ください。
https://corporate.jp.sharp/techday/
※1 2023年10月27日現在、研究レベルにおける太陽電池モジュールにおいて(シャープ調べ)。
※2 2023年2月、国立研究開発法人産業技術総合研究所(世界の太陽電池の公的測定機関の一つ)により、確認された数値[モジュール面積:775cm2、最大出力:26.1W]。
※3 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構。
※4 件名:太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/移動体用太陽電池の研究開発(超高効率モジュール技術開発)。東京大学および豊田工業大学との共同研究テーマに関わる。
事業期間:2020年度~2024年度。
※5 インジウム・ガリウム・リンをトップ層、ガリウム・ヒ素をボトム層とする化合物2接合型。
■ 開発の背景
エネルギー需要の大部分を化石燃料に依存している運輸業界では、CO2排出量削減や大気汚染対策の取り組みの一つとして電動車を導入する動きが加速しており、その効果を最大限に引き出すために再生可能エネルギーからの電力供給が期待されています。また、電気自動車などの移動体に太陽電池を搭載することで、再生可能エネルギー由来の電力を直接供給でき、燃料費や充電回数の削減など、ユーザーの利便性向上が期待されます。
このような背景から、広く一般の電気自動車や宇宙・航空分野などの移動体に搭載されるための技術開発として、高効率、低コストで移動体に搭載可能な太陽電池モジュールの開発に取り組む中、このたび、本プロジェクトにおいて、世界最高の変換効率33.66%を達成しました。
■ 成果
1.化合物・シリコン積層型太陽電池モジュールの開発
モジュールのベースとなるセルについて、これまではインジウム・ガリウム・ヒ素をボトム層とする3つの光吸収層を積み上げる化合物3接合型太陽電池セルを採用していましたが、インジウム・ガリウム・リンおよびガリウム・ヒ素の化合物2接合型セルをトップ層に、シリコンセルをボトム層に配置した新構造に変更。トップ層の化合物2接合型セルには、薄層でも高効率化でき、ボトム層への光透過率を向上させる工夫が施されており、さまざまな波長の光を効率的にエネルギー変換することが可能となりました※6。また、化合物2接合型セルの厚さは、従来の化合物3接合型セルから3分の1以下に薄層化できることから、材料コストの低減が期待されます。
太陽電池モジュールの構成イメージ
※6 東京大学との共同開発:化合物2接合型太陽電池(トップ層)の薄層での高効率化。
豊田工業大学との共同開発:シリコン太陽電池(ボトム層)の高効率化。
2.世界最高変換効率の達成
当社は化合物3接合型太陽電池セルにおいて、2013年4月に小サイズ(面積1.047cm2)で37.9%の変換効率を達成しており、2022年にはセルを薄いフィルムで挟んだ構造に変更し、セルの平均変換効率の向上とセル充填率の改善を図ることで、軽量・フレキシブルな実用サイズのモジュール(面積965cm2)での変換効率32.65%を達成しました。
今回、化合物2接合型太陽電池モジュールとシリコン太陽電池モジュールを組み合わせた積層型太陽電池モジュールに構造を変更することで、実用サイズモジュール(面積775cm2)での変換効率を33.66%まで向上させることができました。
■ シャープ 化合物太陽電池 開発の歩み
1967年 単結晶シリコンを用いた宇宙用太陽電池の開発を開始
1976年 宇宙用太陽電池(単結晶シリコン太陽電池)を搭載した実用衛星「うめ」打ち上げ
2000年 宇宙用太陽電池のさらなる高効率化、軽量化、耐久性向上のために、化合物3接合型
太陽電池の研究開発を開始
2001年 NEDOの太陽光発電研究開発テーマへの参画を開始
2002年 化合物3接合型太陽電池が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の認定を取得
2005年 化合物3接合型太陽電池を搭載した小型科学衛星「れいめい」打ち上げ
2009年 化合物3接合型太陽電池を搭載した温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」打ち上げ
2012年 化合物3接合型太陽電池を搭載した宇宙ステーション補給機「こうのとり3号」打ち上げ
2013年 化合物3接合型太陽電池セルで変換効率37.9%を達成(研究レベル)※7
集光型化合物3接合型太陽電池セル(302倍集光時)で変換効率44.4%を達成(研究レベル)※7
2016年 化合物3接合型太陽電池モジュールで変換効率31.17%を達成
2019年 世界最高水準の高効率太陽電池を搭載した電動車の公道走行実証を開始
2020年 世界最高水準の高効率な太陽電池セルを活用し、電気自動車用太陽電池パネルを製作
2022年 化合物3接合型太陽電池モジュールで変換効率32.65%を達成
※7 NEDO「革新的太陽光発電技術研究開発」プロジェクトの一環として研究開発を実施。