自己循環型
マテリアルリサイクル技術の原点
~今後の挑戦

シャープの「自己循環型マテリアルリサイクル技術」が実用化されたのは2001年で、洗濯機の水槽を再び洗濯機の水槽に戻すことから始まりました。洗濯機の水槽から始めた理由は、洗濯機の水槽は単一素材で回収される大きな部材であることに加え、どのメーカーも耐薬品性に優れたポリプロピレンを採用していることから組成が明らかで集めやすかったためです。
この洗濯機の水槽のリサイクルは、2022年に4巡目に突入しています。この成果の裏には、シャープ独自の穴なし槽洗濯機の存在があります。

リサイクルは4巡目

穴なし槽のメリットがリサイクルのメリットに!

シャープのタテ型洗濯機は、他社にはない「穴なし槽」という大きな特長があります。穴なし槽は洗濯槽と外槽の間にたまるムダな水に注目して開発されたものであり、節水効果が見込めます。加えて、洗濯槽の外側や底裏についた黒カビや汚れが槽内へ侵入するのを防げることから、黒カビによる水槽の汚れが少なくなっています。そのため、回収した水槽は劣化が少なく、比較的きれいな状態で回収することができ、カビや汚れなど異物を除去する作業時間を短縮することができます。このように穴なし槽はリサイクルの観点においても大きなメリットになっています。

再生プラスチックに
新たな価値を付与
「アップグレードリサイクル」の
取り組み

Smart Appliances & Solutions事業本部
要素技術開発部
研究員 上田 拡充

水平リサイクルに加えて、アップグレードリサイクルで利用拡大

当社ではこれまで、洗濯機の水槽リサイクルのように、回収したプラスチックを新しい材料と同等に再生して家電4品目の同種の部品に利用する「水平リサイクル」に取り組んできました。今後、再生プラスチックの更なる利用拡大を図るべく、回収したプラスチックに難燃性や耐候性、高剛性などの機能を新たに付与したりすることで再生プラスチックに新たな付加価値を持たせた「アップグレードリサイクル」技術の開発を推進しており、OA機器や難燃性が求められる家電製品、小型家電などへの利用拡大を図っています。

水平リサイクルからアップグレードリサイクル

アップグレードリサイクル

処方の最適化と添加剤などの追加で新たな価値を付与

アップグレードリサイクルの一例として、薄型テレビのバックキャビネットと冷蔵庫のトレーや棚板などの透明部品をブレンドしたものに最適化した添加剤を加えて高剛性難燃ポリスチレンとして再生したものが、当社の空気清浄機の基板ボックスに採用されました。テレビのバックキャビネットは、もともと難燃性のポリスチレンが使われていますが、空気清浄機の部品として使うには剛性と難燃性、耐衝撃性が不足しているため、剛性の高い冷蔵庫の透明部品をリサイクル原料としてブレンドし、難燃剤に加えてゴムなどの衝撃改質剤を添加して、高い難燃性と物性を両立しました。
また、これまで再生プラスチックだと、色調のばらつきや材料に異物が残って黒点などが生じることがあり、製品の外観部品の採用には至らなかったですが、最適化した着色剤を処方することで意匠性を高め、スティック掃除機のノズルやスタンド台など、外観部品にも採用されるようになりました。着色剤を添加すると物性と耐久性が低下するという課題がありましたが、着色剤の種類や添加量を調節し、問題のない品質の再生プラスチックを創出しました。最近は黒色の家電製品の需要が増えているため、今回の取り組みを契機に再生プラスチックの利用を拡大できればと考えています。

再生プラスチックの採用事例

更に広がる、シャープの自己循環型マテリアルリサイクル技術

Smart Appliances & Solutions事業本部 要素技術開発部のメンバーの皆さん

今後、自己循環型マテリアルリサイクルをどう発展させていきたいですか?

  • 荒井 辰哉

    家電4品目以外の家電製品のプラスチックマテリアルリサイクルも視野に

    小型家電リサイクル法に基づき、家電4品目以外の小型家電のリサイクルも進みつつありますが、現状では金属のリサイクルがほとんどで、プラスチックのリサイクルは進んでいません。シャープとして、家電4品目で培ってきた自己循環型マテリアルリサイクルの技術を活かすとともに、他の家電メーカーさんと協業して回収のスキームなどを検討し、小型家電のプラスチックもリサイクルに取り組んでいきたいと思います。
    また、現在は日本で再生した再生プラスチックを海外の製造拠点に運んでいますが、輸送コストなどもあるため、今後は海外の拠点で再生プラスチックを生産できればと考えています。

  • 中川 智彦

    業界全体で、リサイクルしやすい商品設計に

    効果的なプラスチックの回収方法を検討する上で、私自身も家電製品の解体作業を行いますが、スムーズに解体できないものが意外とあります。異物が少なければ少ないほど、解体しやすければしやすいほど、リサイクルできる量は増えます。社内でこうした研究を行っている部署は他にないため、私たちの部門からリサイクルしやすい商品設計について発信していきたいです。また、他社や他業界にもこうした考えを広げて、リサイクルへの意識向上を図っていきたいです。

  • 西岡 秀二

    プラスチックの再利用を広げ、リサイクル材の更なる用途拡大を

    当社の再生プラスチックは、高純度の素材を回収するための選別工程や適切な添加剤の処方といった過程を経て、再び家電製品に使われています。シャープの技術や企画、開発部門はもちろん、関西リサイクルシステムズや添加剤メーカーなどさまざまな方々と日々関わることが多いため、どのようなニーズや課題があるかを把握しながら、プラスチックの再利用につなげたいと考えています。
    また、再生プラスチックは用途が限られているため、意匠性や物性などの改善に取り組み、用途を拡大したいです。最終的には消費者の皆さんにも、シャープの自己循環型マテリアルリサイクルについて認知していただけるように日々頑張っていきたいです。

  • 福嶋 容子

    プラスチックを使うメーカーの責任として、より環境に配慮した製品を作っていきたい

    私はこれまで四半世紀にわたって自己循環型マテリアルリサイクル技術の開発に取り組んできました。家電リサイクル法の施行から20年以上が過ぎ、ユーザーの環境意識も高くなり、リサイクル材も市民権を得てきたと思います。それでもプラスチックの再利用を取り巻く課題はまだまだあります。我々プラスチックを素材として使っているメーカーの責任として、より環境に配慮した製品を作っていきたいです。
    サーキュラーエコノミーが叫ばれる中、これまでのように一度使ったら終わりという製品はなくなり、リユースされる製品も増えてくるのではないでしょうか。家電の使われ方でリサイクル方法も変わってくると思いますので、これまで培ってきた技術をどのように活かしていくか検討するのが我々の仕事だと考えています。