プラスチックの自己循環型
マテリアルリサイクル技術の拡大

シャープ独自のプラスチック自己循環型
マテリアルリサイクル技術とは

Smart Appliances & Solutions事業本部
要素技術開発部
主任研究員 戸田 明秀

プラスチックのリサイクル方法

使用済みプラスチックによる環境汚染が深刻化する中、世界各国ではプラスチックの資源循環に関する法整備や規制が強化され、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄型の「線形経済」から、新たな資源の投入や消費を抑えつつ、廃棄物の発生を最小化した経済を目指す「サーキュラーエコノミー(循環経済)」への転換が進められています。
シャープはサーキュラーエコノミーの実現を目指して、使用済みプラスチックを新しい製品の原料として再生利用する「マテリアルリサイクル」を推進しています。プラスチックのリサイクルには他にも「サーマルリサイクル」「ケミカルリサイクル」がありますが、燃焼時にCO2を排出するなど環境への影響が懸念されています。「マテリアルリサイクル」は資源の有効利用に加えて、繰り返しリサイクルするため、CO2排出量の削減にも貢献しています。
また、このマテリアルリサイクルは、使用済みプラスチックを別の製品の原料として再生利用する「オープンマテリアルリサイクル」と、同じ製品の原料として再生利用する「クローズドマテリアルリサイクル」の2つがあります。当社が目指すリサイクルは「クローズドマテリアルリサイクル」で、家電リサイクル法に基づき回収された家電4品目(エアコン・テレビ・冷蔵庫/冷凍庫・洗濯機/衣類乾燥機)をリサイクルして再生プラスチックを作り、再び新しい家電製品に何度も繰り返し再生利用するスキームを構築しています。

各リサイクル方法の環境への影響

自己循環型マテリアルリサイクルのフロー

当社では、関西リサイクルシステムズ株式会社とともに、家電リサイクル法が施行された2001年からこの技術を「自己循環型マテリアルリサイクル」として実用化し、使用量は累計21千tに達しています(2001~2023年度実績)。当社においては、以下のフローに沿って再資源化に取り組んでいます。

回収から再生、品質管理まで一貫した技術開発で、安定した品質のリサイクル材を提供

  • ※ シャープ(株)と三菱マテリアル(株)など6社が共同で出資している家電リサイクル会社。

高純度のプラスチックを回収し、添加剤で修復

自己循環型マテリアルリサイクルを実現するためには、「分離回収と異物除去」「特性改善・性能安定化」「品質管理」という3つの課題があります。

(1)分離回収と異物除去

使用済み家電製品から回収したプラスチックには、種類の異なるプラスチックや金属、使用環境由来の付着物など、さまざまな異物が混在しており、これらの異物が再生プラスチックの性能や品質に悪影響を与えます。このため、関西リサイクルシステムズでは、人の手で解体し分類しています。また、分類し切れない小さな部品や複合部品に関しては、破砕後に協力会社で素材の物理的性質を利用した水比重選別や風力選別等の選別装置を用いて異なる種類のプラスチックやゴム、金属、スポンジなどの異物を除去し、高純度のプラスチックを回収しています。

選別装置による異物除去

(2)特性改善・性能安定化

異物除去後のリサイクル原料の一例

使用済み家電製品から回収したプラスチックはさまざまな環境で長期間使用されているため、新しい材料に比べ、物性や耐久性が低下しています。このため、まず、回収したプラスチックについて組成分析や特性評価を行い、劣化の度合いやその発生原因、回収した時期や製品の構成比による原料ばらつきを把握します。そして、低下した性能を改善するために添加剤の種類や配合量などの最適化を行い、独自のリサイクル処方を用いて再生プラスチックを新しい材料と同等に劣化の修復をしています。このリサイクル処方によって回収プラスチックの原料ばらつきを低減し、常に安定した性能と品質を確保しています。

再生プラスチックを新しい材料と同等に修復したり、機能性を付与したりする添加剤。
劣化を防ぐ酸化防止剤や難燃性を付与する難燃剤などがある。

(3)品質管理

使用済み製品から回収したプラスチックは、当社製品だけでなく他社製品も含まれており、さらに特性や使用年数、使用環境などが異なるものが混ざっています。このため、再生プラスチックが家電製品の材料として一定の品質基準を満たしているかを確認することがとても重要です。
シャープは再生プラスチックの品質管理を徹底するため、独自の評価基準を設けて、評価試験を行っています。評価試験は再生プラスチックを溶かして試験片を作製し、万能試験機・化学分析機器等を用い、測定しています。シャープの評価試験は引張強度や衝撃強度などの基本特性の試験だけでなく、「長期間使用しても耐える強度があるか」という耐久性(○○年以上の長期信頼性)を管理項目に加えた評価試験を行っています。
しかしながら、耐久性の評価試験は添加剤の含有量や異物等のさまざまな要因を加味した評価が必要であり、また試験期間も数か月にわたることから手間と時間がかかるといった課題がありました。そこでシャープは再生プラスチックの耐久性に影響する因子を特定し、従来法よりも高負荷条件で試験可能な手法を開発し、数時間から数日の短時間の耐久性評価を可能にしました。これにより冷蔵庫や洗濯機などの耐久消費財の材料として安定した品質で出荷できるようになりました。

上記のように独自の評価基準を設けた評価試験は、社内の設備で以下の手順に沿って実施しています。
まず、リサイクル原料と添加剤をブレンドし、押出成形機にてペレットに加工します。

リサイクル材の調製

調製されたペレットの一例

次に、射出成形機にペレットを入れ、溶かして試験片を作成します。

出来上がった試験片を用いて引張試験や曲げ試験、耐久性、燃焼性、耐薬品性、環境負荷などの試験を行います。

試験装置

動画万能試験機を用いて再生プラスチックの「引張強度」を評価
左は添加剤で引張特性を改善した再生プラスチック、右は添加剤を処方していない再生プラスチック。右は伸びずに破断する、左はしっかり伸びて破断せず一定の強度があった。
動画落錘衝撃試験機を用いて再生プラスチックの「衝撃強度」を評価
左は添加剤で衝撃強度を改善した再生プラスチック、右は添加剤を投入していない再生プラスチック。右は割れ、左は割れず一定の強度があった。