サプライチェーンCSRの推進
「機会の均等」と「公平な評価」に基づいた調達先の決定
シャープは、経営理念に掲げる「株主、取引先をはじめ、全ての協力者との相互繁栄を期す」という言葉のとおり、お取引先様をはじめとする全てのステークホルダーの皆様と一体となって、「事業活動を通じた社会課題の解決」と「社会・環境への負荷軽減」に取り組み、持続可能な成長と相互繁栄を目指しています。
この目標を達成するために、シャープは調達活動全般において公平性と公正性を重視し、材料・部品・設備などの調達先を選定する際には、日本国内・海外全てのお取引先様に対して平等に機会を提供し、要求品質・規格・性能などを満たしているかどうかを公正に評価しています。
基本購買方針
お取引先様とともに持続可能な成長と相互繁栄を実現するためには、部品・材料の品質・価格・納期に関する取り組みだけでなく、「製品安全」「環境安全」「人権・労働」「安全衛生」など、サプライチェーン全体で企業の社会的責任(CSR)を果たすことが求められています。
シャープは、調達活動における「基本的な考え方」や「お取引先様へのお願い事項」などを「基本購買方針」として定めています。「お取引先様へのお願い事項」には、関連する法令の遵守だけでなく、適切な労働環境の整備、児童労働や強制労働の禁止、差別の禁止、贈収賄や不公正な行為の禁止など社会規範の遵守や環境への配慮についても明記し、これらの事項について、お取引先様に積極的に取り組みをお願いしています。
また、シャープでは日頃の商談活動の中でもお取引先とのコミュニケーションを積極的に図り、サステナブルな調達に関する理解を深める取り組みを行っています。
購買活動の基本的な考え方
- ①公明正大を旨として、国内外すべての企業に公平な機会を設け、公正な評価のもとで購買活動を行います。
- ②法令、社会規範を遵守し、お取引先様との相互協力、信頼関係の構築に努めます。
- ③購買活動を通して、地球環境保全など社会的責任を果たしていきます。
- ④最適な品質とコストを追求します。

グローバルサプライチェーンの概要
シャープの連結子会社数は日本国内21社、海外97社(2025年3月31日現在)です。事業のグローバル化に伴い、売上高の59.4%は海外が占めており、部材調達においても金額ベースで62.2%は海外生産拠点で調達しています。
シャープは香港および韓国に調達拠点(International Procurement Office:IPO)を設置して、部材の現地調達拡大や物流最適化などの調達活動を推進しています。
部材の現地調達の拡大を通じて、お取引先様との相互繁栄を図り、地域経済の発展に貢献しています。
地域別売上高(2024年度)

生産拠点別調達金額構成比(2024年度)

サプライチェーン全体でのCSR推進
2024年度の目標 | 2024年度の実績 | 自己評価 | 2025年度の重点取り組み目標 |
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★★ |
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- 自己評価:
- ★★★ 目標を上回る成果があった
- ★★ 目標を達成
- ★ 一定の成果があった
サプライチェーンCSR推進の方針と取り組み体制
シャープは、グループのCSRに関する基本方針として「シャープグループ企業行動憲章」および「シャープ行動規範」を定め、従業員に徹底しています。
サプライチェーンCSRの推進にあたっては、主管する調達本部を2024年6月より代表取締役 社長執行役員 CEO直轄本部として体制を強化し、各事業本部・子会社の調達部門と連携しながらグループ全体でサステナブルな調達活動に取り組んでいます。
また、CEOを委員長とする「サステナビリティ委員会」において「サプライチェーンのESGリスクの低減」を重要取り組みテーマの1つとして設定し、本社機能部門と各事業本部・子会社が方針や施策を共有し、サプライチェーンCSR関連施策の進捗管理を行っています。
シャープサプライチェーンCSR推進ガイドブック
シャープは、シャープグループのCSRに対する考え方を理解し、実践していただくため、2007年度に「シャープサプライチェーンCSR推進ガイドブック」を作成・公表し、日本語、英語、中国語でお取引先様に配布しています。また、取引基本契約書にもガイドブックに基づくCSR取り組みをお取引先様の遵守事項として盛り込むとともに、お取引先様のサプライヤーに対してもガイドブックへの賛同および実践をいただくようお願いしています。
2015年度には、このガイドブックを国際標準である「RBA行動規範」に準拠した内容に全面改定し、その後も「RBA行動規範」の改定に合わせて、ガイドブックを随時部分改定し、変化する国際的なCSR基準に対応しています。
業界標準イニシアティブへの加盟と取り組み
シャープは、2021年12月にグローバルサプライチェーンにおける社会的責任を推進する企業同盟であるResponsible Business Alliance(RBA)に加盟し、RBAのビジョンとミッションをグループ全体で共有し、サステナブル調達の取り組みを進めています。
また、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)などの活動にも積極的に参画し、業界全体のサステナブル調達の促進に貢献しています。
シャープサプライチェーンCSR推進ガイドブック第4版(2025年1月改訂)の項目
A.労働
- 強制労働の禁止
- 若年労働者
- 労働時間
- 賃金および福利厚生
- 差別の排除/ハラスメントの禁止/人道的待遇
- 結社の自由および団体交渉
B.安全衛生
- 労働安全衛生
- 緊急時への備え
- 労働災害および疾病
- 産業衛生
- 身体に負荷のかかる作業
- 機械の安全対策
- 衛生設備、食事、および住居
- 安全衛生に関わる連絡
C.環境
- 環境許可と報告
- 汚染防止と省資源
- 有害物質
- 固形廃棄物
- 大気への排出
- 資材の制限
- 水の管理
- エネルギー消費および温室効果ガスの排出
D.倫理
- ビジネスインテグリティ
- 不適切な利益の排除
- 情報の開示
- 知的財産
- 公正なビジネス、広告、および競争
- 身元の保護と報復の排除
- 責任ある鉱物調達
- プライバシー
E.マネジメントシステム
- 企業のコミットメント
- 経営者の説明責任と責任
- 法的要件および顧客の要件
- リスク評価とリスク管理
- 改善目標
- トレーニング
- コミュニケーション
- 労働者/ステークホルダーの関与と救済へのアクセス
- 監査および評価
- 是正措置プロセス
- 文書化と記録
- サプライヤーの責任
お取引先様へのCSR啓発・リスク評価の実施
近年、サプライチェーン上の奴隷労働や強制労働等の問題が国際的な関心を集め、欧米を中心とした各国においては「米国ウイグル強制労働防止法」や「EUコーポレート・サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)」をはじめとするサプライチェーン人権デュー・ディリジェンス関連法規制が相次ぎ成立、施行または審議されています。企業のサプライチェーンCSRの取り組みも一層のレベルアップが求められています。
シャープは、RBA行動規範に準拠する「シャープサプライチェーンCSR推進ガイドブック」に基づき、お取引先様のCSR取り組み状況を確認し、サプライチェーン上のCSRリスクを特定・評価・低減するために「CSR・グリーン調達調査」を継続して実施しています。
調査票は、RBAの自己評価調査票(SAQ:Self-Assessment Questionnaire)に準拠する「労働」「安全衛生」「環境」「倫理」に加えて、当社独自の「生物多様性/化学物質管理」「BCP(事業継続計画)」「情報セキュリティ」など幅広い分野を網羅しています。
また、お取引先様に各設問の意図や背景を正しく理解していただくため、主な設問には当社独自のガイダンス(補足説明)を追加するなど、調査対応を通じて、お取引先様の国際的なCSR基準に関する理解の促進を図っています。
調査はシャープへの納入品を製造するお取引先様または二次製造メーカー以降の工場単位で実施し、評価結果(スコアカード)をお取引先様にフィードバックしています。評価の結果、低評価の分野がある場合には改善計画書の提出を求め、調査後のお取引先様とのコミュニケーションを通じて、サプライチェーンCSR取り組みの継続的な改善を推進しています。
2024年度は、当社グループが調達している国内外のお取引先様のうち調達金額上位80%を占める470社960事業所を対象に調査し、363社713事業所(回収率約74.2%)から回答を回収しました。このうち低評価となった35事業所からは改善計画書を受領し、改善取り組みを要請しましたが、サプライチェーン上で強制労働や児童労働などの深刻な問題は確認されていません。
今後の継続的なデュー・ディリジェンス取り組みにより、万一人権侵害等が確認された場合は、契約に基づき直ちにお取引先様と協議の上で必要な是正および救済措置を講じます。改善が見込まれない場合は、被害者の救済措置を最優先としつつ、取引停止を含む厳格な措置を取る方針です。
これからも国際的な人権デュー・ディリジェンスに関する動向に対応し、サプライチェーン全体で企業の社会的責任を果たしていくための取り組みを強化していきます。
CSR・グリーン調達調査の評価分布状況(日本国内および海外の全生産拠点)

2024年度CSR・グリーン調達調査によって見つかった問題点と改善事例
分野 | サプライヤの問題点 | サプライヤの改善内容 |
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労働 |
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倫理 |
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BCP |
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情報セキュリティ |
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調達担当者への教育
社内の調達担当者にCSRに関する考え方を理解・実践させるために「基本購買方針」の徹底やサプライチェーンCSRに関するカリキュラムを、新入社員研修、転入者研修および管理力向上研修に取り入れています。
また、人権尊重については「シャープ行動規範に基づくコンプライアンス学習」を、持続可能な調達に関する基礎知識については「ESGに関する学習」を日本国内グループ全従業員を対象に実施しています。これらにより、社内の調達担当者全員が持続可能な調達に関連する研修を受講しています。
2025年度は、海外拠点を含むシャープグループ全体の調達業務に従事する従業員を対象にサステナビリティ関連学習の100%実施を目標として実施する計画です。
今後も、こうした教育プログラムの拡充と継続的な実施を通じて、国内外の調達担当者の持続可能な調達に関するより一層の理解の促進を図っていきます。
調達BCP※1の推進
シャープでは、地震,台風の大規模災害や感染症の流行などにおいても、パートナーである取引先と当社の事業の継続や早期復旧を可能にするため、「ビジネスリスクマネジメント規程」に基づいてのBCPの策定と定期的な見直しを実施しています。
調達部門では、部材の安定確保および調達価格の適正化を目指し、お取引先様とのパートナーシップを強化し、部材の長期枠取りなどに取り組むと同時に、複数のお取引先様からの購買を推進しています。さらに、お取引先様に対して、シャープへの納入品の生産拠点(工場)所在地の定期確認・更新を要請しています。また、「CSR・グリーン調達調査」を通じてお取引先様のBCPの策定状況を確認しています。
- Business Continuity Plan (事業継続計画)。
お取引先様からの通報・相談体制の強化
シャープ(株)および日本国内の関係会社では、組織もしくは個人の法令違反または倫理違反等を取り扱う総合通報窓口「クリスタルホットライン」を設置し、お取引先様からの通報・相談を受け付けています。
加えて、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」が企業に求める苦情処理メカニズムの整備のため、2020年に一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)の発足メンバー(正会員)として加盟しました。
JaCERが運用する「対話救済プラットフォーム」は34言語に対応し、グローバルサプライチェーン上(2次先以下を含む)の取引先従業員やそれを支援する労働組合、市民社会組織(NGO)などを含む広範なステークホルダーが、人権に関する苦情を申し立てることができる体制を整備しています。
お取引先様におけるサステナブル調達促進への働きかけ
シャープは、お取引先様のサステナブル調達への理解を深めていただくために、国内では2024年9月に「Sharp Supplier Summit」を開催し、130社261名の主要お取引先様に対して、サステナブル調達に向けたシャープの方針を説明しました。
また、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)の「CSR委員会」および「責任ある鉱物調達検討会」のメンバーとして、お取引先様向け講演会の企画・運営、最新情報の発信など、サステナブル調達に関する教育・啓発活動に参画するなど、お取引先様の理解の促進と能力開発を積極的に支援しています。
「下請法」遵守を徹底するための監査と教育
シャープ(株)および国内関係会社では下請事業者の利益を正しく保護するための法律である「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」の遵守を徹底するため、コンプライアンスチェックおよび社内教育を継続的に実施しています。
コンプライアンスチェックについては、法令遵守を一層強化するため、各事業本部、調達部門、本社部門、国内関係会社が下請法遵守状況を自己点検する「下請法セルフチェック」を毎年実施しています。さらに、国内関係会社に対する個別の社内勉強会、グループ全体で受講者約12,000人(日本国内グループ従業員の76.1%)のeラーニングの実施、社外セミナーへの参加などを通じて、全ての調達部員に下請取引にかかる政府方針を含む知識の浸透と下請法遵守意識の徹底を図りました。

責任ある鉱物調達への取り組み
責任ある鉱物調達に関する方針および体制
近年、米国金融規制改革法(ドッド・フランク法)や欧州紛争鉱物規則に加え、「欧州電池規則」や「企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令」など、企業に人権・環境デュー・ディリジェンスを義務付ける法規制の成立が相次ぎ、企業に求められる「責任ある鉱物調達」の取り組みは「鉱物」「地域」「リスク」ともに対象範囲が拡がり、ますます複雑化してきています。
シャープは、「OECD※1紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス(OECDガイダンス)」に基づく、デュー・ディリジェンス活動を通じて、当社グループが調達する部材等に含まれる鉱物のサプライチェーンにおける人権侵害や環境破壊等に加担しないこと、また、現地での健全かつ合法的な事業活動を阻害しないよう適切な対応を行うことを基本方針としています。
この基本方針の下、主要な事業本部・子会社において責任ある鉱物調達体制を構築するとともに、代表取締役 社長執行役員 CEOを委員長とするサステナビリティ委員会において重点取り組みテーマの一つに設定し、関連施策の進捗状況を確認しています。
業界と連携した取り組み
シャープは、「責任ある鉱物調達」を効率的・効果的に進めていくためには、国内外の団体と連携して、コンセンサスを図りながら取り組むことが重要であると考え、2012年度から、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)の「責任ある鉱物調達検討会」に加盟しています。
また、2021年12月にはRMI※2に加盟し、責任ある鉱物調達に関する最新の国際動向を把握しながら、グローバルに連携を深め、鉱物デュー・ディリジェンス取り組みの継続的なレベルアップを図っています。
国際基準に則った鉱物ディー・ディリジェンス
シャープは、RMIが発行する国際的な報告テンプレート(CMRT※3/EMRT※4)を使用し、3TG(タンタル、錫、タングステン、金)の調査に加えて、顧客企業からの依頼に応じて、コバルトや天然マイカ(雲母)や、2025年4月にEMRTに追加された銅、ニッケル、リチウム、天然グラファイト等の調査対応を実施しています。
調査に当たってはお取引先様に対して、RMAP※5適合製錬業者からの調達を要請するとともに、回収したCMRT/EMRTを精査し、「OECDガイダンス」に基づくリスクの特定と評価を行っています。
2024年度は、主要な事業本部・子会社において年間約400件の調査対応を実施した結果、280社の3TG製錬/精製業者を特定し、RMAP適合率は約80%※6でした。
RMAP未適合またはハイリスクな製錬/精製業者については、サプライチェーンを通じてRMAPへの参加を促すとともに、武装勢力との関係や深刻な人権侵害等に関与していることが明らかになった場合は、お取引先様と情報を共有して、RMAP適合業者への切り替えを含む対応を協議しています。
特定した製錬・精製業者のRMAP適合率の推移
2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | |
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RMAP適合率 | 63% | 79% | 80% |
- Organisation for Economic Co-operation and Development(経済協力開発機構)。
- Responsible Minerals Initiative(責任ある鉱物調達に取り組む国際的な団体)。
- Conflict Minerals Reporting Template RMIが作成、公開している紛争鉱物報告テンプレート。
- Extended Minerals Reporting Template RMIが作成、公開しているコバルト・マイカ報告テンプレート。
- Responsible Minerals Assurance Process(RMIが運用する製錬/精製業者の認証プロセス)。
- 2025年3月現在。
責任ある鉱物調達に関する教育と啓発
責任ある鉱物調達に関わる従業員の理解を深めるため、原則として月に一度、主要な事業本部・生産子会社の調査関係者を対象とした定例ミーティングを実施し、最新の国際動向に関する情報共有や、調査実務上の課題および調査システムの改善について協議しています。
また、調達部門担当者や新入社員に対して「責任ある鉱物調達」を含むサプライチェーンCSRに関する研修等を定期的に実施している他、イントラネットに常設している「管理力向上研修」のコンテンツの1つとして関連資料を掲載するなど、責任ある鉱物調達に関する従業員の理解の促進を図っています。
また、サプライチェーンに対しては、JEITAが主催するサプライヤー向け「責任ある鉱物調達説明会」に企画段階から参画し、資料作成、当日運営にも積極的に関わるなど、業界サプライチェーンにおける「責任ある鉱物調達」への理解の促進と川下企業の能力開発を支援しています。さらにRMIが策定・運用するRMAPに参加していない製錬/精製業者に対して監査の受審を促すためのアウトリーチレターを送付して啓発するなど、グローバルベースで鉱物調達に関わる人権侵害等の実効的な解消に貢献しています。

OECDガイダンスに準拠したデュー・ディリジェンス取り組み
シャープは、責任ある鉱物調達に当たって、「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス(OECDガイダンス)」で推奨されている5ステップに基づき、デュー・ディリジェンス取り組みを進めています。
OECDガイダンスの5ステップ | シャープの具体的な取り組み |
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ステップ1: 強固な企業管理システムの構築 |
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ステップ2: サプライチェーンにおけるリスクの特定と評価 |
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ステップ3: 特定されたリスクに対処するための戦略の構築と実施 |
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ステップ4: 独立した第三者による製錬/精製業者のデュー・ディリジェンス行為の監査を実施 |
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ステップ5: サプライチェーンのデュー・ディリジェンスに関する年次報告 |
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